2012年7月19日木曜日

俺の屍を越えてゆけ 当主の覚書4


1018年12月 (初代当主―年齢:1年4ヶ月 9ヶ月目)
京の街の商人たちに3000両ほど寄付をした。
山剣の初陣である。九重楼討伐に同行させる事とする。
私、薙焔、弓福、山剣の四人。山剣は初陣とはいえ、これだけの人数で討伐に行くのは初めてだ。
心強い。薙焔と二人きりで討伐に赴いていた時の心細さが懐かしい。
二人でも九重楼の山道の妖怪たちに遅れをとることはなかった。
私たちは血煙を上げながら山道を駆け上った。山剣も初陣とは思えない働きぶりだ。やはり上位の神の子供だけのことはある。直ぐに私に追いつくだろう。
数日後、九重楼の門に辿り着いた。門から異様な気を感じる。初めての大物だ。
山剣は初陣だが、ここ数日の働きぶりをみて、やれると踏んだ。私たちは門に近づいた。
分厚い門が開き巨大な手足が生えた赤い達磨が出てきた。私たちより二回りは大きい。
弓福が前触れも無く矢を放つ。達磨の巨体に矢が刺さる。が刺さっただけだ。何の反応もない。
私と薙焔がほぼ同時に斬りつける。まるで岩だ。一瞬呆然とした。衝撃を感じた時には、地面に叩き付けられていた。気がつくと山剣が私に薬を飲ませる。落ち着いている大したもんだ。
薬は薬草と呪法で出来たもので飲めば、腕の一本や二本が斬り落とされても生えてくる。
「火車だ併せろ!」叫んだ。薙焔、弓福が頷く。火車という術がある、敵を炎で焼きつくす術だ。一人よりも二人、三人で術を念じて使ったほうが炎が大きくなる。山剣はこの術を使えないから、三人でこの術を併せる。剣では倒せない。
達磨の身の丈よりも大きい炎が奴を包む。並の妖怪ならこれで消炭になるところだが、炎の中から現れた達磨はまだ達磨だった。
しかし表情と焼け焦げた身体を見れば、わかる。殺せる。
何回目かの火車の併せの炎が達磨を焼いた時、達磨は焼け落ちた。こちらも達磨の豪腕で手酷い傷を負ったが生きている。
焼け落ちた達磨の身体から神々しい光が天に登っていった。
屋敷に帰ると使用人が教えてくれたが、達磨は元々神の一人で朱点童子によって妖怪に身を落とされていたということだ。私達と同じように呪いをかけられていたが、何かの拍子に呪いが解けたらしい。

1019年1月 (初代当主―年齢:1年5ヶ月 10ヶ月目)
身体の調子が悪い。老化が激しい。若い時より速い速度で老化している。普通の人間で言えば50か60といったところか。
今月は1年1ヶ月になった薙焔に交神の儀をさせる。孫の顔を見て逝きたいものだ。
愛染院明丸様を相手に選んだ。交神の儀の準備は三人もいればよいので他の者は討伐に出そうかと思ったが、儀式中に血なまぐさい事を身内がやるのも縁起が悪いと思い直した。交神の儀がある月は討伐を行わないとした。


1019年2月 (初代当主―年齢:1年6ヶ月 11ヶ月目)

もうこれが最後の討伐だろう。普段の半分も力が出ない。皆が心配しているが笑う。
一匹でも多く妖怪どもを斬ってやるつもりだ。来月は福弓に交神の儀をさせるつもりだ。ちょっとでも上位の神と交神させてやりたい。
最後の討伐は、私と薙焔の初陣の相翼院とした。初陣の時は薙焔と二人きりだったが、今では更に二人の子が私と戦ってくれている。その姿を観ていると、私は朱点童子に一太刀浴びせるどころか姿すら観ることができかなったが、それは私の子供が孫が成してくれると信んじられる。